まず先行配信されていたAspectsとMovin Onが静かながらも力強い名曲であったこと、そしてその後に発表されたミッドセンチュリーなチェアーに威風堂々腰掛けるポートレートを配したアートワークを見て、「これは間違いない!」と思い、アナログを予約した。
予感は的中、とりあえず『Wake Up The Nation』からこっちではもうダントツに素晴らしい。まず思い切った事をしたなぁと思ったのは、ジャム→スタカンのときにも行った「ディストーションギターの封印」が再び試されていること。リズム楽器も重く、太くと言うより、滑らかに、軽やかに置かれており、ほぼ全編に渡ってストリングスやホーンが配されたリッチなサウンドは、ソロになってからもS・クラドック達を従え、バンドサウンド的なイメージの強かった彼の音楽をいよいよバカラックのようなコンポーザーが作ったまさにソロ作品といった趣に変えている。
サウンドメイキングがまた開き直ったかのように60年代なのも良い。しかも所詮ビートルズ、ストーンズのような60年代『ロック』サウンドではなく、ソウル、ジャズ、フォーク、ポップス、ソフトサイケ、ラーガ、バロックロックなど60年代に鳴っていた音全体を咀嚼、再構築したかのようなサウンドはとにかくセンスが良い。そう、たとえホーンやストリングスを使えど、そこに大げささやわざとらしさは微塵もなく、全ての楽器、メロディーをクールに美しく紡いでいる様は英国随一の伊達(モッド)男の凄まじさを改めて見せつけられた気がする(というより久々のモッドなウェラーの帰還に感動の涙が止まらないんだけど)。各楽曲のクオリティも今回は総じて高く、ここ数作に感じた「なんかちょっと物足りないんよなぁ」という感覚は今作にはなかったし、ウェラー流60sソウルなMayflyは初めて聴いた時点で嬉しすぎてちょっと泣いた。
前述の通り今回のアルバムに「パンクなウェラー」「ロックなウェラー」は全くいないので、そちらを期待していたファンの評価は分かれると思うし、「ウェラーも還暦を迎えていよいよ本当に枯れたな」と思われるかもしれない。実際今回のアルバムの異様な美しさは、彼岸の地や雲の上で鳴ってるようでもあり、ちょっと浮世離れしている気もする。
(それでもいいけど)このまま老境を極めた音作りに今後はシフトしていくのかなあと思いきや、インタヴューで「今回は大分前からライブで演ってたGravityのウケが良かったんで、そっち方面に大きく舵をきったアルバムを作ってみただけだ。同じサウンドをずっと続けるつもりはない(キッパリ)。」だって。
もう一生貴方にはついて行く覚悟ですわ(笑)。