面白かった。本書を読むと、他人の幸福が取るに足らないものになる。というのも、人類の歴史を俯瞰できるから。
本書では、第一章「人類が新たに取り組むべきこと」で、不死、幸福、神性の3つをあげている。そのうちの幸福の部分では、以下のような記述が見られる。
「人を幸福にするものは、一つ、たった一つしかなく、それは体の中の快感だ」
「それはボールがアルゼンチンのゴールに入ったからではなく、(中略)自分の中で起こっている感覚の嵐に反応している」
「そのような感覚を覚えるには、なにもワールドカップの決勝のゴールを決める必要はない。」
著者によると人類はこの先、幸福をコントロール可能なものにできるらしい。というのも、幸福をコントロールすることは、それほど難しいことではないからだ。人間は誰もが人生に幸福を求める。でもって幸福とは脳内の化学物質の分泌である。ワールドカップの決勝でゴールを決めるのも、寿司屋でうまい寿司を食べるのも、職場でいい仕事を成し遂げるのも、すべて化学物質の分泌で説明がつく。それぞれ出来事こそ違うものの、頭の中で起こっていることはすべて同じなのだ。ゴールを決めて踊りだすサッカー選手も、寿司を頬張りながらうんちくを垂れるグルメも、契約を取れてこっそりガッツポーズをするビジネスマンも、どれも化学物質の分泌は同じ。であるならば、幸福を得るためにわざわざ世界級のサッカー選手になる必要はない。それぞれの人生を歩んで、それぞれの人生の中で幸福を求めればよいことになる。このように、幸福とはコントロール可能なもの。
そう考えると、他人の幸福も大したことがないもののように思えてくる。世の中には自分より遥かに大きな事業を成し遂げ、「あれだけの事を成し遂げたんだから、さぞかし幸福なのだろう」と一般大衆から羨ましがられる者がいるが、それも手の届かないものではなくなる。……というか、実際、手の届かないものではない。どの人間の、どの瞬間の幸福も、セロトニン・オキシトシン・ドーパミンであることに違いはないのだから。
本書は人類の歴史を振り返り、行く末を予想する内容。人類の歴史を俯瞰できると、このように他人の幸福が取るに足らないものに感じるようになる。
あとは麻薬やコカインの使用など、倫理的な問題だろう。
面白いので、おすすめです。
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ホモ・デウス 上: テクノロジーとサピエンスの未来 単行本 – 2018/9/6
ユヴァル・ノア・ハラリ
(著),
柴田裕之
(翻訳)
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『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来 (上)(下)巻セット』 こちらをチェック
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世界1200万部突破の『サピエンス全史』著者が戦慄の未来を予言する! 『サピエンス全史』は私たちがどこからやってきたのかを示した。『ホモ・デウス』は私たちがどこへ向かうのかを示す。
全世界1200万部突破の『サピエンス全史』の著者が描く、衝撃の未来!
我々は不死と幸福、神性を目指し、
ホモ・デウス(神のヒト)へと自らをアップグレードする。
そのとき、格差は想像を絶するものとなる。
35カ国以上で刊行され、600万部突破のベストセラー!
ニューヨーク・タイムズ紙、ウォール・ストリート・ジャーナル紙、
ワシントン・ポスト紙、ガーディアン紙ほか、各紙大絶賛!
「優れた作品である『サピエンス全史』よりも面白く読める、より重要な作品である。」
──カズオ・イシグロ(ノーベル文学賞受賞者)
「人類にとって何が待ち受けているのか、思慮深い考察を著している。」
──ビル・ゲイツ(マイクロソフト創業者)
「あなたに衝撃を与え、楽しませ、そしてなによりも
以前は考えたこともないような方法であなたを考えさせる。」
──ダニエル・カーネマン(ノーベル経済学賞受賞者)
【上巻目次】
第1章 人類が新たに取り組むべきこと
生物学的貧困線/見えない大軍団/ジャングルの法則を打破する/死の末日/幸福に対する権利/地球という惑星の神々/誰かブレーキを踏んでもらえませんか?/知識のパラドックス/芝生小史/第一幕の銃
第1部 ホモ・サピエンスが世界を征服する
第2章 人新世
ヘビの子供たち/祖先の欲求/生き物はアルゴリズム/農耕の取り決め/五〇〇年の孤独
第3章 人間の輝き
チャールズ・ダーウィンを怖がるのは誰か?/証券取引所には意識がない理由/生命の方程式/実験室のラットたちの憂鬱な生活/自己意識のあるチンパンジー/賢い馬/革命万歳!/セックスとバイオレンスを超えて/意味のウェブ/夢と虚構が支配する世界
第2部 ホモ・サピエンスが世界に意味を与える
第4章 物語の語り手
紙の上に生きる/聖典/システムはうまくいくが……
第5章 科学と宗教というおかしな夫婦
病原菌と魔物/もしブッダに出会ったら/神を偽造する/聖なる教義/魔女狩り
全世界1200万部突破の『サピエンス全史』の著者が描く、衝撃の未来!
我々は不死と幸福、神性を目指し、
ホモ・デウス(神のヒト)へと自らをアップグレードする。
そのとき、格差は想像を絶するものとなる。
35カ国以上で刊行され、600万部突破のベストセラー!
ニューヨーク・タイムズ紙、ウォール・ストリート・ジャーナル紙、
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「優れた作品である『サピエンス全史』よりも面白く読める、より重要な作品である。」
──カズオ・イシグロ(ノーベル文学賞受賞者)
「人類にとって何が待ち受けているのか、思慮深い考察を著している。」
──ビル・ゲイツ(マイクロソフト創業者)
「あなたに衝撃を与え、楽しませ、そしてなによりも
以前は考えたこともないような方法であなたを考えさせる。」
──ダニエル・カーネマン(ノーベル経済学賞受賞者)
【上巻目次】
第1章 人類が新たに取り組むべきこと
生物学的貧困線/見えない大軍団/ジャングルの法則を打破する/死の末日/幸福に対する権利/地球という惑星の神々/誰かブレーキを踏んでもらえませんか?/知識のパラドックス/芝生小史/第一幕の銃
第1部 ホモ・サピエンスが世界を征服する
第2章 人新世
ヘビの子供たち/祖先の欲求/生き物はアルゴリズム/農耕の取り決め/五〇〇年の孤独
第3章 人間の輝き
チャールズ・ダーウィンを怖がるのは誰か?/証券取引所には意識がない理由/生命の方程式/実験室のラットたちの憂鬱な生活/自己意識のあるチンパンジー/賢い馬/革命万歳!/セックスとバイオレンスを超えて/意味のウェブ/夢と虚構が支配する世界
第2部 ホモ・サピエンスが世界に意味を与える
第4章 物語の語り手
紙の上に生きる/聖典/システムはうまくいくが……
第5章 科学と宗教というおかしな夫婦
病原菌と魔物/もしブッダに出会ったら/神を偽造する/聖なる教義/魔女狩り
- 本の長さ272ページ
- 言語日本語
- 出版社河出書房新社
- 発売日2018/9/6
- 寸法13.7 x 2.3 x 19.6 cm
- ISBN-104309227368
- ISBN-13978-4309227368
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商品の説明
著者について
ユヴァル・ノア・ハラリYuval Noah Harari
1976年生まれのイスラエル人歴史学者。オックスフォード大学で中世史、軍事史を専攻して博士号を取得し、現在、エルサレムのヘブライ大学で歴史学を教えている。軍事史や中世騎士文化についての著書がある。オンライン上での無料講義も行ない、多くの受講者を獲得している。著書『サピエンス全史』は世界的なベストセラーとなった。
1976年生まれのイスラエル人歴史学者。オックスフォード大学で中世史、軍事史を専攻して博士号を取得し、現在、エルサレムのヘブライ大学で歴史学を教えている。軍事史や中世騎士文化についての著書がある。オンライン上での無料講義も行ない、多くの受講者を獲得している。著書『サピエンス全史』は世界的なベストセラーとなった。
登録情報
- 出版社 : 河出書房新社 (2018/9/6)
- 発売日 : 2018/9/6
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 272ページ
- ISBN-10 : 4309227368
- ISBN-13 : 978-4309227368
- 寸法 : 13.7 x 2.3 x 19.6 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 57,100位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 166位歴史学 (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
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2024年2月29日に日本でレビュー済み
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2020年3月26日に日本でレビュー済み
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(上下巻通して)
本書は、テクノロジーとサピエンスの未来についてである。「人類はどこへ向かうのか?」ということを歴史学の立場から検討している。著者の多様な知識と独創的な知見に対しては、大いに敬意を表する。
「歴史を学べば、私たちはあちらへ、こちらへと顔を向け、祖先には想像できなかった可能性や祖先が私たちに想像してほしくなかった可能性に気づき始めることができる。」
著者のこの主張は、重要であり、私も同感である。しかし、残念ながら多くの人びとが納得のいく未来を描き出せないでいる。どのように行動したらよいかを、具体的に示していない。そして、最後に次のように述べている。
「本書で概説した筋書はみな、予言ではなく可能性として捉えるべきだ。こうした可能性のなかに気に入らないものがあるなら、その可能性を実現させないように、ぜひ従来とは違う形で考えて行動してほしい。」
そこで、西洋思想を身に付け、企業の外から技術活動をみてきた歴史学者である著者とは対照的に、私は、東洋思想を身に付け、企業の中で当事者として技術活動を行ってきた生産技術者という見方で、テクノロジーとサピエンスの未来について考えを述べてみたい。
*
「未来は、予測するのではなく、創るものである。だから、どういう未来を創りたいのか。どうすれば、それを創りだせるか。」ということを考えるべきであると思う。しかも、直面している問題の解決を最優先に考えるべきと思う。
我われの文明は、国際秩序の混乱、核兵器、化石燃料の枯渇、環境破壊、経済の格差や暴走、人口の増大などによって存続の危機に直面している。これらの諸大問題は、指摘されてからどれも半世紀以上たつが、政治家も、社会科学者も、哲学者も解決の見通しを得ることができないでいる。
*全体構想の重要性
特に、エネルギーを多量消費する機械文明は、発展期は自由放任がよい。しかし、化石燃料の枯渇によって期限つきの転換を迫られている現在の段階では、転換を計画的に進めないと社会は経済面と機能面で大混乱に陥る。諸問題を解決する有効な全体計画を創り、整然と実行に移すことは、人類の最重要課題、最優先課題である。
核兵器の拡散やテロ問題を考えることも重要である。核兵器に限らず、小型兵器の高性能化によって、少数者でも多くの破壊行為を行えるようになった。銃の乱射事件、自爆テロ、9.11同時多発テロで明らかである。これらの行動は、深い絶望からくる自暴自棄の行為である。不満や不条理を力で押さえつけることは難しくなっている。宮澤賢治のいうように「世界全体が幸せにならない限り、個人の幸せはありえない」状況になっている。
全体構想が創られ、公表され、多くの人びとが関心をもち、その構想の価値を認めたならば、世の中は変わり始める。まず、社会問題に苦しんでいる多くの人びとが、希望をもつと思う。深い絶望からくる暴発は思いとどまると思う。この全体構想は、世界の多くの人びとの手によって、検討され、改良され、補足され、しだいに全体的で完成度の高い計画書になると思われる。そうすれば、世界の多くの人びとの手によって、建設を始められるのである。それは、何よりも時間と人間の潜在能力を有効に生かすことである。
それにもかかわらず、全体構想の重要性に気がつかないためか、あるいは、そんなものは出来るはずがないと最初から決めつけているためか、全体構想を創ろうとする動き、あるいは、「全体構想を創るべきである」という声が世界のどこからも聞こえてこない。
*
先に述べた諸大問題を解決するための全体構想を創るためには、これまでの考え方とは異なった考え方が必要である。
私は、かつて電機メーカーに生産技術者として勤めていた。生産技術者とは「仕事の方法の改善」を行う専門職である。定年後、私は社会問題の解決に取り組んでみた。私は、諸大問題が発生している真の原因は、政治システムが時代遅れのためであると考え、情報技術を応用して新しい民主主義政治システムを考え出すことを目指した。そして、新しい政治システムを考え出し、諸大問題を解決することのできる全体構想を創りあげることができた。私は、全体構想があるていど纏まってきた段階で、多くの書籍を取り寄せ、多方面から全体構想の妥当性を評価した。同時に、考え方や表現を洗練させていった。この作業過程で、アマゾンなどの書籍の通信販売や読者書評が大いに役にたった。
まず、全体構想の核心部を述べておく。
**全体構想の核心部
脳科学の知見では、人間は、脳内に環境のモデルをもっていて、それを過去・現在・未来と関係づけて使用し、行動しているという。さらに、人間の脳においては、論理的な機能を受け持つ左脳と、パターン処理を受けもつ右脳とが、互いにコミュニケーションして行動を決定しているという。ここで問題は、環境があまりに複雑なために、脳の情報処理能力が不足状態にあることである。
結論からいえば、諸大問題を政治的に解決するためには、今後の行動と未来の状態との関係について事前に合理的に予測する能力を、誰もがもてる社会的な仕組みが必要であった。
それは、地球上での全活動についてのシステム・モデルを作り、コンピューターでシミュレーションすることで可能になると考えられる。
このとき、人間の生き方の多様性、各人の自由意思についての対応が必要である。システム・モデルを作るときも全員が参加して現実の全体像に近いモデルを作る。シミュレーションのときも、全員が参加して、今後とるべきいろいろな行動案、政策案をつくり、その未来の結果を確かめ、その中からもっともよいものを選んで合意し、今後実行する。これは、一種の実証主義である。
この仕組みを、私は未来共同探索システムと名づけた。
未来共同探索システムを使うことで、政治システム、行政システムで次とイノベーションが起こる。そうすると先にあげた諸大問題だけでなくさまざまな社会問題を解決できる。さらには、持続可能な社会へ計画的に移行できる。
*
ここから、本書と関連付けて考えてみる。私の全体構想を支えている思想について、歴史的な視点で検討してみる。
これまでに人間が生み出した思想には、絶対的な神の意向に従うというキリスト教あるいはイスラム教の思想と、観察からえた法則と合理的な思考に従うという思想とがあった。後者は、自然、社会、あるいは自分自身を注意深く観察して、繰り返し現れる法則性に気づき、合理的な考え方によってそれらの法則性を利用するという生き方である。主体性を重んじ、実証主義と結びついている。
後者の思想を、自然界の理解、「もの作り」に利用したのが科学と技術である。技術思想つまり「もの作り」思想は、ホモ・ハビリス以来、200万年の歴史がある。
また、後者の思想を人間の生き方に利用したのが、東洋思想である陰陽思想と仏教思想である。陰陽思想は3000年以上、仏教思想は2500年の歴史がある。ここでは仏教思想を取り上げてみる。
さらに、「もの作り」思想、陰陽思想、仏教思想の間には、もう一つの共通点がある。環境、人間、人間の行動というものを、一体のシステムとして考えていることである。
**「もの作り」思想の本質
技術を発展的に考えようとするならば、技術の本質に対して次のような認識が重要である。
人間は理想をもち、理想を実現しようとする存在である。何らかの理想を実現するためには、それに対応した何らかの能力を高める必要がある。その能力を得るために人間は、道具を発明し、身体の延長として使いこなすようになった。技術は、人間の能力の限界を克服し、理想を実現するためのものである。肉体的な能力、感覚的な能力、思考能力についてそれぞれ多様な道具があり、多様な技術がある。道具は、一種のシステムである。
さて、「もの作り」の活動目的は、人間の生活に役に立つ、何らかの機能を生み出す道具、すなわちシステムを創りだし、社会に提供することである。最初にシステム設計という作業があり、その作業過程で、価値観、知識、経験が内部化される。科学的な方法がいたるところで使われており、科学と技術は一体である。また、実証主義が徹底されている。
これらのことは、自動車というシステム製品を例に考えるとよくわかると思う。
*仏教思想の本質
まず、仏教思想の本質を次のように理解しておくことが重要である。
仏教では、環境、人間、人間の行動というものを、一つのシステムとして考えている。
因果則は、システムとして、各要素間の動きを示すものである。中道思想は、両極端を避けるべきであるとする。これは、特定のことを重視する「主義」とは異なる。人間の認識力、思考力に限界があることも認めている。
「人間は誰も自分が一番愛おしいのだ。だから、自分を大切にするように、他者も大切にしなければならないのだ」。これは、神の命令とは異なる。
ブッダが、死の直前に弟子たちに今後の生き方として説いた教えとして「法を拠り所にし、自分を拠り所にせよ。日々、怠ることなく、勤め励め。」といものがある。合理的な教え、自主性、進歩向上の継続的な努力を重んじている。
**「もの作り」思想と仏教思想との結合
仏教思想を、発展的に考えようとするならば、大乗仏教思想の本質を次のように理解する必要がある。そうすることによって、先に述べた技術の本質とつながりができてくる。
大乗仏教経典の代表である法華経では、仏とは、仏教でいう理想的能力をもった人、つまり因果関係で世の中の変化を見通す能力をもった人、諸法実相を観る能力をもっている人だという。その能力は、途方もなく長い年月の修行の結果として得られるという。だから、仏教僧は、もっぱら、教義の探究と訓練、つまり修行によって、能力を得ることを目指してきた。しかし、因果関係で世の中をみるという原理は、合理的であっても、人間の知的能力の限界によって実践が限られていた。知的能力の限界を突破するためには、情報技術の進歩を待たなければならなかった。
社会が世界的な広がりで複雑化し、また情報技術が非常に進歩した現代において、仏教の真価を発揮させる好機がとうとう到来したのである。ただし、根底にあるシステム的な考え方を現代的に変えなければならない。そうすると、先ほど述べた全体構想の核心部の考え方へとつながり、未来共同探索システムが登場するのである。私には、法華経は、問題解決の原理を示し、未来の情報技術者にその実現を託した空想科学小説(SF)に思えてならない。
人間は、これまで自分の行為と未来の状態との因果関係がわからなかった。仏教ではこれを無明と呼ぶが、未来共同探索システムは、無明の闇を除き、未来という世界を明るく見通しのきく世界に変える手段であると考える。大乗仏教では、誰もが仏と同じ能力をもつことを目指すが、未来共同探索システムはその実現手段といえる。
*著者の質問と私の答え
本書の下巻の最後に、三つの質問がある。これまでのことを踏まえ、私は次のように解答する。
1.Q:生き物はアルゴリズムにすぎないのか? 生命はデーター処理にすぎないのか?
A:システムの一般的な性質として、システムは機能的に階層構造を形成している。この問いの場合、生命というシステムの下位階層機能で考えているだけである。人間は生きるうえで主体性をもっているという上位階層機能を無視した質問である。
2.Q:知能と意識のどちらのほうが価値があるのか?
A:当然、意識(欲求)の方に価値があり、知能は、手段である。ただし、難しい問題を解決する場合は、高い知能を持たなければならない。その知能も、意識によって使い方をコントロールしなければならない。仏教では、解決済みの問題である。
3.Q:意識をもたないものの高度な知能を備えたアルゴリズムが、私たちが自分自身を知るよりもよく私たちのことを知るようになったとき、社会や政治や日常生活はどうなるのか?
A:この質問は、本末転倒であり、人間が生きるという努力の尊さと主体性、互いに助け合うという共同体を無視している。経済的な価値と個人の自由を過度に意識している。技術も科学も、私たちにとってよりよい生活をするための手段であり、だから主体性をもって活動を適度にマネジメントしなければならない、ということを忘れている。
すべての人が幸せな日常生活を送れる社会にするためには、すべての人間を主体とした優れた政治システムを創らなければならない。その政治システムの中で、人間の意識と、高度な知能を備えたアルゴリズムが機能しなければならない。使われる情報とアルゴリズムは、実態にあった適切なものであり、社会的に承認されたものでなければならない。それが、未来共同探索システムとそれを使った世界規模の政治システムである。私たちが五感で世界を知るよりも、未来共同探索システムを使うことで、私たちは、自分自身についても、世界についても、よく知ることができる。
*世界的な活動機会の創成
著者は、AIによって多くの人間が働きの場を失うことを心配している。しかし、私の全体構想を実現しようとするならば、多くの若者たちに、新しい活躍の場を提供する。社会科学は、新しい方向に進歩を始める。破壊された地域の復興事業が始まる。未来共同探索システムや新しい政治システムを建設するために、情報通信分野で大きな事業機会が生じる。核兵器廃止団体、環境保護団体などの市民団体は、新しい政治システムの実現を当面の共通目標にして協力することができる。
以下、私が社会問題の解決に取り組んだ経緯と、創りあげた全体構想について述べる。
**生産技術者が気づいた不審な現象**
私は団塊の世代である。大学で機械工学と生産工学を学んだ。電機メーカーに就職しコンピューターを利用した生産システムの開発にあたった。11年前に定年退職し、私は世界の大問題に目をむけた。
私は、社会の主要活動の一つである政治で、なぜか情報技術の利用に消極的な事実に気づいた。そして、生産技術者の視点からみて、大問題を長年解決できない真の原因は、次の事実に世界の誰も気がつかないためであると確信した。
(1) 代表制民主主義政治システムは、人間の思考能力の限界から、社会が必要としている社会問題の解決能力に応えられない。まったく時代遅れの状態のままで放置されている。
(2)情報技術を利用して、理想的な民主主義政治システムを発明しなければならない状態にある。
そこで私は、生産技術者の経験を生かして、理想的な民主主義政治システムの設計に挑戦した。そして以下のような全体構想を創りあげ、問題解決の見通しを得た。
**構想の概要**
私の研究は、次の2人の世界観と人間観を出発点とした。
(1)古生物学者 テイヤール・ド・シャルダン (『現象としての人間』)
「人間は、新たな進化が必要な段階に達したが、出口を見出せずに苦しんでいる。」
(2)経営思想家 ピーター・ドラッカー (『テクノロジストの条件』他)
「未来が存在するのは、それを我われが創るからである。未来は、我われが望み、我われが現実とするものによって形作られる。」
「人間は、道具によって進化する。 現在の技術革命を利用して理想を実現せよ。」
私は、世界の動きをシステムと考え、システムの性質をうまく利用して根源的な原因を解消し、多様な社会問題を一挙に解決することを考えた。そのために、システム科学、情報科学、脳科学などを使って、よりよい未来を創りだす方法を研究した。
そして、次の考えによってそれを可能にした。
世界のすべての人びとが協力して、高い忠実性をもった地球システムのモデルを作る必要がある。地球システム・モデルは、地球環境、生物の活動、人間の活動のモデルで構成され、互いに関連付けられている。モデルの中の人間の活動は、各人のそれぞれの代理人によって行われる。
地球シミュレーターは、ある時点の地球システム・モデルを入力し、1ケ月後の地球システム・モデルを予測して出力する。これを次つぎに1200回繰り返せば、100年後までの地球社会の状態を時系列的に予測できる。
この仕組を使い、全員が参加して、各人の今後の行動と未来の結果との関係を、コンピューターを使ってシミュレーションし、精度よく予測する。各人は、モデルの中の自分の代理人を操作し、一種の人生ゲームを行うことになる。予想された未来の状況が望ましくないのなら、最初(現在)まで、あるいは途中までもどって、条件を変えてやり直すことができる。我われは、眼の前のものしか見えないが、このサイバー・ワールドの中では、時空をこえて世界をみることができる。
この方法によって、よりよい未来をもたらす各人の行動プランを試行錯誤的に共同で探り当て、議論し、その中でもっともよい行動プランに合意する。各人は合意したそれぞれの行動プランの通りにこれから実行する。もちろん定期的に再考し、軌道修正する。こうすれば、社会としても、個人としても、よりよい未来を実現できるはずである。この仕組みを、私は未来共同探索システムと名づけた。
**新たな財の誕生と新たな経済の誕生**
よい生き方のできる行動プランは、希少価値をもつ。物質的な財に対して、優れた行動プランは精神的な財と呼ぶことができる。
未来共同探索システムは、精神的な財の評価手段であり、社会的共通資本である。
民主主義政治で重要なことは、まず優秀な政策案が社会に提案されること。同時に、市民側は、提案された政策案を適切に評価し合意する能力をもつこと。これは、車輪の両輪である。政策案は、精神的な公共財である。
政策案作りは、これまで少数の官僚が、厳しい時間的な制約のもとで行っていた。このあい路を打開するため、政策案の作成は、政府機関による独占をやめて民間企業に開放し、同時に政策案の自由市場を創る。
政策案を生産する企業にとって、未来共同探索システムは、社会的なニーズのマーケテイング手段であり、試作した政策案の試験評価手段でもある。
市民は、未来共同探索システムを使って市場に出された政策案を評価し、優れた政策案を採用する。そのときに適切な対価を政策案の生産者に支払う。こうすれば、優れた政策案が多数生み出される豊かな社会が実現できると思う。
**社会問題の解決**
*政治における基本的な問題の解決
未来共同探索システムを使うと、世界規模の直接民主政治を実現することができ、一人ひとりの意思を政治に反映できる。自宅のパソコンから世界一斉の人生ゲームに参加し、インターネットを使って議論に参加できる。
地球全体の問題と自分の住む地域の問題、経済問題と環境問題、短期的な問題と長期的な問題、これら複雑に絡みあった社会問題を調和させて解決できる。
*世界政治における問題の解決
民主主義政治の適用には、社会規模の限界という制約がある。国家の構成員の数が増加するにつれて、公平な利害関係の調整が急速に複雑化するからである。未来共同探索システムを内蔵した新しい政治システムを作ると、この社会規模の限界は克服され、地球社会全体に民主主義による秩序を確立することが可能となる。
国連を発展させた形態で、国家主権の壁を廃止して地球社会全体に責任をもつ世界連邦政府を設立し、世界連邦政府を頂点とした地域分権型の行政組織を作ることができる。
世界連邦政府によって、新しい政治システムの建設と運営が行われる。
国家という壁のない政治、行政機構、そして、情報システムを活用した効率的な事務運営が可能になる。
その結果、平和問題、環境問題などの地球社会全体の問題と、国や地域の個別的な問題とを関係づけて解決できるようになる。
各国の軍隊は解散し、世界秩序の維持のために小規模な世界警察軍が設置される。この過程の中で各国の核兵器は一斉に廃棄される。
経済問題も、先々の状況、多方面の状況を見通しながら思い切った調整をすることができる。
*エネルギー問題の解決
エネルギー大量消費型の機械文明は、発展期は放任しておいた方がよい。しかし、化石燃料の枯渇によって新たな社会構造への転換を迫られている現段階では、計画的に転換を図らなければ、世界全体が機能不全の多発と燃料の激しい争奪戦のために、大混乱に陥るのは目にみえている。
現在手持ちの化石燃料は、現在の社会の構造転換のため、その間を乗り切るために使い、そして未来世代の分も遺しておかなければならない。
未来共同探索システムは、社会構造の設計ツールとしても利用できるため、再生可能エネルギーだけで維持できる社会構造を設計できる。技術的な対応だけでなく、柔軟性のある政治的な対応力も増すことができる。そして、世界連邦政府のもとで、新しい文明社会への移行事業を計画的に進めることができる。
**構想の実現**
私は、直面する大問題を一通り解決できるこの構想を、人類の一大プロジェクトとして実施すべきであると世界に向けて言いたい。
本書は、テクノロジーとサピエンスの未来についてである。「人類はどこへ向かうのか?」ということを歴史学の立場から検討している。著者の多様な知識と独創的な知見に対しては、大いに敬意を表する。
「歴史を学べば、私たちはあちらへ、こちらへと顔を向け、祖先には想像できなかった可能性や祖先が私たちに想像してほしくなかった可能性に気づき始めることができる。」
著者のこの主張は、重要であり、私も同感である。しかし、残念ながら多くの人びとが納得のいく未来を描き出せないでいる。どのように行動したらよいかを、具体的に示していない。そして、最後に次のように述べている。
「本書で概説した筋書はみな、予言ではなく可能性として捉えるべきだ。こうした可能性のなかに気に入らないものがあるなら、その可能性を実現させないように、ぜひ従来とは違う形で考えて行動してほしい。」
そこで、西洋思想を身に付け、企業の外から技術活動をみてきた歴史学者である著者とは対照的に、私は、東洋思想を身に付け、企業の中で当事者として技術活動を行ってきた生産技術者という見方で、テクノロジーとサピエンスの未来について考えを述べてみたい。
*
「未来は、予測するのではなく、創るものである。だから、どういう未来を創りたいのか。どうすれば、それを創りだせるか。」ということを考えるべきであると思う。しかも、直面している問題の解決を最優先に考えるべきと思う。
我われの文明は、国際秩序の混乱、核兵器、化石燃料の枯渇、環境破壊、経済の格差や暴走、人口の増大などによって存続の危機に直面している。これらの諸大問題は、指摘されてからどれも半世紀以上たつが、政治家も、社会科学者も、哲学者も解決の見通しを得ることができないでいる。
*全体構想の重要性
特に、エネルギーを多量消費する機械文明は、発展期は自由放任がよい。しかし、化石燃料の枯渇によって期限つきの転換を迫られている現在の段階では、転換を計画的に進めないと社会は経済面と機能面で大混乱に陥る。諸問題を解決する有効な全体計画を創り、整然と実行に移すことは、人類の最重要課題、最優先課題である。
核兵器の拡散やテロ問題を考えることも重要である。核兵器に限らず、小型兵器の高性能化によって、少数者でも多くの破壊行為を行えるようになった。銃の乱射事件、自爆テロ、9.11同時多発テロで明らかである。これらの行動は、深い絶望からくる自暴自棄の行為である。不満や不条理を力で押さえつけることは難しくなっている。宮澤賢治のいうように「世界全体が幸せにならない限り、個人の幸せはありえない」状況になっている。
全体構想が創られ、公表され、多くの人びとが関心をもち、その構想の価値を認めたならば、世の中は変わり始める。まず、社会問題に苦しんでいる多くの人びとが、希望をもつと思う。深い絶望からくる暴発は思いとどまると思う。この全体構想は、世界の多くの人びとの手によって、検討され、改良され、補足され、しだいに全体的で完成度の高い計画書になると思われる。そうすれば、世界の多くの人びとの手によって、建設を始められるのである。それは、何よりも時間と人間の潜在能力を有効に生かすことである。
それにもかかわらず、全体構想の重要性に気がつかないためか、あるいは、そんなものは出来るはずがないと最初から決めつけているためか、全体構想を創ろうとする動き、あるいは、「全体構想を創るべきである」という声が世界のどこからも聞こえてこない。
*
先に述べた諸大問題を解決するための全体構想を創るためには、これまでの考え方とは異なった考え方が必要である。
私は、かつて電機メーカーに生産技術者として勤めていた。生産技術者とは「仕事の方法の改善」を行う専門職である。定年後、私は社会問題の解決に取り組んでみた。私は、諸大問題が発生している真の原因は、政治システムが時代遅れのためであると考え、情報技術を応用して新しい民主主義政治システムを考え出すことを目指した。そして、新しい政治システムを考え出し、諸大問題を解決することのできる全体構想を創りあげることができた。私は、全体構想があるていど纏まってきた段階で、多くの書籍を取り寄せ、多方面から全体構想の妥当性を評価した。同時に、考え方や表現を洗練させていった。この作業過程で、アマゾンなどの書籍の通信販売や読者書評が大いに役にたった。
まず、全体構想の核心部を述べておく。
**全体構想の核心部
脳科学の知見では、人間は、脳内に環境のモデルをもっていて、それを過去・現在・未来と関係づけて使用し、行動しているという。さらに、人間の脳においては、論理的な機能を受け持つ左脳と、パターン処理を受けもつ右脳とが、互いにコミュニケーションして行動を決定しているという。ここで問題は、環境があまりに複雑なために、脳の情報処理能力が不足状態にあることである。
結論からいえば、諸大問題を政治的に解決するためには、今後の行動と未来の状態との関係について事前に合理的に予測する能力を、誰もがもてる社会的な仕組みが必要であった。
それは、地球上での全活動についてのシステム・モデルを作り、コンピューターでシミュレーションすることで可能になると考えられる。
このとき、人間の生き方の多様性、各人の自由意思についての対応が必要である。システム・モデルを作るときも全員が参加して現実の全体像に近いモデルを作る。シミュレーションのときも、全員が参加して、今後とるべきいろいろな行動案、政策案をつくり、その未来の結果を確かめ、その中からもっともよいものを選んで合意し、今後実行する。これは、一種の実証主義である。
この仕組みを、私は未来共同探索システムと名づけた。
未来共同探索システムを使うことで、政治システム、行政システムで次とイノベーションが起こる。そうすると先にあげた諸大問題だけでなくさまざまな社会問題を解決できる。さらには、持続可能な社会へ計画的に移行できる。
*
ここから、本書と関連付けて考えてみる。私の全体構想を支えている思想について、歴史的な視点で検討してみる。
これまでに人間が生み出した思想には、絶対的な神の意向に従うというキリスト教あるいはイスラム教の思想と、観察からえた法則と合理的な思考に従うという思想とがあった。後者は、自然、社会、あるいは自分自身を注意深く観察して、繰り返し現れる法則性に気づき、合理的な考え方によってそれらの法則性を利用するという生き方である。主体性を重んじ、実証主義と結びついている。
後者の思想を、自然界の理解、「もの作り」に利用したのが科学と技術である。技術思想つまり「もの作り」思想は、ホモ・ハビリス以来、200万年の歴史がある。
また、後者の思想を人間の生き方に利用したのが、東洋思想である陰陽思想と仏教思想である。陰陽思想は3000年以上、仏教思想は2500年の歴史がある。ここでは仏教思想を取り上げてみる。
さらに、「もの作り」思想、陰陽思想、仏教思想の間には、もう一つの共通点がある。環境、人間、人間の行動というものを、一体のシステムとして考えていることである。
**「もの作り」思想の本質
技術を発展的に考えようとするならば、技術の本質に対して次のような認識が重要である。
人間は理想をもち、理想を実現しようとする存在である。何らかの理想を実現するためには、それに対応した何らかの能力を高める必要がある。その能力を得るために人間は、道具を発明し、身体の延長として使いこなすようになった。技術は、人間の能力の限界を克服し、理想を実現するためのものである。肉体的な能力、感覚的な能力、思考能力についてそれぞれ多様な道具があり、多様な技術がある。道具は、一種のシステムである。
さて、「もの作り」の活動目的は、人間の生活に役に立つ、何らかの機能を生み出す道具、すなわちシステムを創りだし、社会に提供することである。最初にシステム設計という作業があり、その作業過程で、価値観、知識、経験が内部化される。科学的な方法がいたるところで使われており、科学と技術は一体である。また、実証主義が徹底されている。
これらのことは、自動車というシステム製品を例に考えるとよくわかると思う。
*仏教思想の本質
まず、仏教思想の本質を次のように理解しておくことが重要である。
仏教では、環境、人間、人間の行動というものを、一つのシステムとして考えている。
因果則は、システムとして、各要素間の動きを示すものである。中道思想は、両極端を避けるべきであるとする。これは、特定のことを重視する「主義」とは異なる。人間の認識力、思考力に限界があることも認めている。
「人間は誰も自分が一番愛おしいのだ。だから、自分を大切にするように、他者も大切にしなければならないのだ」。これは、神の命令とは異なる。
ブッダが、死の直前に弟子たちに今後の生き方として説いた教えとして「法を拠り所にし、自分を拠り所にせよ。日々、怠ることなく、勤め励め。」といものがある。合理的な教え、自主性、進歩向上の継続的な努力を重んじている。
**「もの作り」思想と仏教思想との結合
仏教思想を、発展的に考えようとするならば、大乗仏教思想の本質を次のように理解する必要がある。そうすることによって、先に述べた技術の本質とつながりができてくる。
大乗仏教経典の代表である法華経では、仏とは、仏教でいう理想的能力をもった人、つまり因果関係で世の中の変化を見通す能力をもった人、諸法実相を観る能力をもっている人だという。その能力は、途方もなく長い年月の修行の結果として得られるという。だから、仏教僧は、もっぱら、教義の探究と訓練、つまり修行によって、能力を得ることを目指してきた。しかし、因果関係で世の中をみるという原理は、合理的であっても、人間の知的能力の限界によって実践が限られていた。知的能力の限界を突破するためには、情報技術の進歩を待たなければならなかった。
社会が世界的な広がりで複雑化し、また情報技術が非常に進歩した現代において、仏教の真価を発揮させる好機がとうとう到来したのである。ただし、根底にあるシステム的な考え方を現代的に変えなければならない。そうすると、先ほど述べた全体構想の核心部の考え方へとつながり、未来共同探索システムが登場するのである。私には、法華経は、問題解決の原理を示し、未来の情報技術者にその実現を託した空想科学小説(SF)に思えてならない。
人間は、これまで自分の行為と未来の状態との因果関係がわからなかった。仏教ではこれを無明と呼ぶが、未来共同探索システムは、無明の闇を除き、未来という世界を明るく見通しのきく世界に変える手段であると考える。大乗仏教では、誰もが仏と同じ能力をもつことを目指すが、未来共同探索システムはその実現手段といえる。
*著者の質問と私の答え
本書の下巻の最後に、三つの質問がある。これまでのことを踏まえ、私は次のように解答する。
1.Q:生き物はアルゴリズムにすぎないのか? 生命はデーター処理にすぎないのか?
A:システムの一般的な性質として、システムは機能的に階層構造を形成している。この問いの場合、生命というシステムの下位階層機能で考えているだけである。人間は生きるうえで主体性をもっているという上位階層機能を無視した質問である。
2.Q:知能と意識のどちらのほうが価値があるのか?
A:当然、意識(欲求)の方に価値があり、知能は、手段である。ただし、難しい問題を解決する場合は、高い知能を持たなければならない。その知能も、意識によって使い方をコントロールしなければならない。仏教では、解決済みの問題である。
3.Q:意識をもたないものの高度な知能を備えたアルゴリズムが、私たちが自分自身を知るよりもよく私たちのことを知るようになったとき、社会や政治や日常生活はどうなるのか?
A:この質問は、本末転倒であり、人間が生きるという努力の尊さと主体性、互いに助け合うという共同体を無視している。経済的な価値と個人の自由を過度に意識している。技術も科学も、私たちにとってよりよい生活をするための手段であり、だから主体性をもって活動を適度にマネジメントしなければならない、ということを忘れている。
すべての人が幸せな日常生活を送れる社会にするためには、すべての人間を主体とした優れた政治システムを創らなければならない。その政治システムの中で、人間の意識と、高度な知能を備えたアルゴリズムが機能しなければならない。使われる情報とアルゴリズムは、実態にあった適切なものであり、社会的に承認されたものでなければならない。それが、未来共同探索システムとそれを使った世界規模の政治システムである。私たちが五感で世界を知るよりも、未来共同探索システムを使うことで、私たちは、自分自身についても、世界についても、よく知ることができる。
*世界的な活動機会の創成
著者は、AIによって多くの人間が働きの場を失うことを心配している。しかし、私の全体構想を実現しようとするならば、多くの若者たちに、新しい活躍の場を提供する。社会科学は、新しい方向に進歩を始める。破壊された地域の復興事業が始まる。未来共同探索システムや新しい政治システムを建設するために、情報通信分野で大きな事業機会が生じる。核兵器廃止団体、環境保護団体などの市民団体は、新しい政治システムの実現を当面の共通目標にして協力することができる。
以下、私が社会問題の解決に取り組んだ経緯と、創りあげた全体構想について述べる。
**生産技術者が気づいた不審な現象**
私は団塊の世代である。大学で機械工学と生産工学を学んだ。電機メーカーに就職しコンピューターを利用した生産システムの開発にあたった。11年前に定年退職し、私は世界の大問題に目をむけた。
私は、社会の主要活動の一つである政治で、なぜか情報技術の利用に消極的な事実に気づいた。そして、生産技術者の視点からみて、大問題を長年解決できない真の原因は、次の事実に世界の誰も気がつかないためであると確信した。
(1) 代表制民主主義政治システムは、人間の思考能力の限界から、社会が必要としている社会問題の解決能力に応えられない。まったく時代遅れの状態のままで放置されている。
(2)情報技術を利用して、理想的な民主主義政治システムを発明しなければならない状態にある。
そこで私は、生産技術者の経験を生かして、理想的な民主主義政治システムの設計に挑戦した。そして以下のような全体構想を創りあげ、問題解決の見通しを得た。
**構想の概要**
私の研究は、次の2人の世界観と人間観を出発点とした。
(1)古生物学者 テイヤール・ド・シャルダン (『現象としての人間』)
「人間は、新たな進化が必要な段階に達したが、出口を見出せずに苦しんでいる。」
(2)経営思想家 ピーター・ドラッカー (『テクノロジストの条件』他)
「未来が存在するのは、それを我われが創るからである。未来は、我われが望み、我われが現実とするものによって形作られる。」
「人間は、道具によって進化する。 現在の技術革命を利用して理想を実現せよ。」
私は、世界の動きをシステムと考え、システムの性質をうまく利用して根源的な原因を解消し、多様な社会問題を一挙に解決することを考えた。そのために、システム科学、情報科学、脳科学などを使って、よりよい未来を創りだす方法を研究した。
そして、次の考えによってそれを可能にした。
世界のすべての人びとが協力して、高い忠実性をもった地球システムのモデルを作る必要がある。地球システム・モデルは、地球環境、生物の活動、人間の活動のモデルで構成され、互いに関連付けられている。モデルの中の人間の活動は、各人のそれぞれの代理人によって行われる。
地球シミュレーターは、ある時点の地球システム・モデルを入力し、1ケ月後の地球システム・モデルを予測して出力する。これを次つぎに1200回繰り返せば、100年後までの地球社会の状態を時系列的に予測できる。
この仕組を使い、全員が参加して、各人の今後の行動と未来の結果との関係を、コンピューターを使ってシミュレーションし、精度よく予測する。各人は、モデルの中の自分の代理人を操作し、一種の人生ゲームを行うことになる。予想された未来の状況が望ましくないのなら、最初(現在)まで、あるいは途中までもどって、条件を変えてやり直すことができる。我われは、眼の前のものしか見えないが、このサイバー・ワールドの中では、時空をこえて世界をみることができる。
この方法によって、よりよい未来をもたらす各人の行動プランを試行錯誤的に共同で探り当て、議論し、その中でもっともよい行動プランに合意する。各人は合意したそれぞれの行動プランの通りにこれから実行する。もちろん定期的に再考し、軌道修正する。こうすれば、社会としても、個人としても、よりよい未来を実現できるはずである。この仕組みを、私は未来共同探索システムと名づけた。
**新たな財の誕生と新たな経済の誕生**
よい生き方のできる行動プランは、希少価値をもつ。物質的な財に対して、優れた行動プランは精神的な財と呼ぶことができる。
未来共同探索システムは、精神的な財の評価手段であり、社会的共通資本である。
民主主義政治で重要なことは、まず優秀な政策案が社会に提案されること。同時に、市民側は、提案された政策案を適切に評価し合意する能力をもつこと。これは、車輪の両輪である。政策案は、精神的な公共財である。
政策案作りは、これまで少数の官僚が、厳しい時間的な制約のもとで行っていた。このあい路を打開するため、政策案の作成は、政府機関による独占をやめて民間企業に開放し、同時に政策案の自由市場を創る。
政策案を生産する企業にとって、未来共同探索システムは、社会的なニーズのマーケテイング手段であり、試作した政策案の試験評価手段でもある。
市民は、未来共同探索システムを使って市場に出された政策案を評価し、優れた政策案を採用する。そのときに適切な対価を政策案の生産者に支払う。こうすれば、優れた政策案が多数生み出される豊かな社会が実現できると思う。
**社会問題の解決**
*政治における基本的な問題の解決
未来共同探索システムを使うと、世界規模の直接民主政治を実現することができ、一人ひとりの意思を政治に反映できる。自宅のパソコンから世界一斉の人生ゲームに参加し、インターネットを使って議論に参加できる。
地球全体の問題と自分の住む地域の問題、経済問題と環境問題、短期的な問題と長期的な問題、これら複雑に絡みあった社会問題を調和させて解決できる。
*世界政治における問題の解決
民主主義政治の適用には、社会規模の限界という制約がある。国家の構成員の数が増加するにつれて、公平な利害関係の調整が急速に複雑化するからである。未来共同探索システムを内蔵した新しい政治システムを作ると、この社会規模の限界は克服され、地球社会全体に民主主義による秩序を確立することが可能となる。
国連を発展させた形態で、国家主権の壁を廃止して地球社会全体に責任をもつ世界連邦政府を設立し、世界連邦政府を頂点とした地域分権型の行政組織を作ることができる。
世界連邦政府によって、新しい政治システムの建設と運営が行われる。
国家という壁のない政治、行政機構、そして、情報システムを活用した効率的な事務運営が可能になる。
その結果、平和問題、環境問題などの地球社会全体の問題と、国や地域の個別的な問題とを関係づけて解決できるようになる。
各国の軍隊は解散し、世界秩序の維持のために小規模な世界警察軍が設置される。この過程の中で各国の核兵器は一斉に廃棄される。
経済問題も、先々の状況、多方面の状況を見通しながら思い切った調整をすることができる。
*エネルギー問題の解決
エネルギー大量消費型の機械文明は、発展期は放任しておいた方がよい。しかし、化石燃料の枯渇によって新たな社会構造への転換を迫られている現段階では、計画的に転換を図らなければ、世界全体が機能不全の多発と燃料の激しい争奪戦のために、大混乱に陥るのは目にみえている。
現在手持ちの化石燃料は、現在の社会の構造転換のため、その間を乗り切るために使い、そして未来世代の分も遺しておかなければならない。
未来共同探索システムは、社会構造の設計ツールとしても利用できるため、再生可能エネルギーだけで維持できる社会構造を設計できる。技術的な対応だけでなく、柔軟性のある政治的な対応力も増すことができる。そして、世界連邦政府のもとで、新しい文明社会への移行事業を計画的に進めることができる。
**構想の実現**
私は、直面する大問題を一通り解決できるこの構想を、人類の一大プロジェクトとして実施すべきであると世界に向けて言いたい。
2021年5月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
衝撃のトピック満載なので、かなりわくわく読めましたが、新しい概念が多く例も山ほどなので(これぞ知の巨人!)、ピックアップして読むなり、読破するのに少々頑張りが必要のようだ~ だけど~オーディオブックと合わせて進めていけばだいぶ楽になります。帰り道や料理していた時に聞いて、大体一週間程度で一冊が聞けました。気になるところには集中して読み直すのがよいかと思います。
難しい概念があるけれどハラリさんはかなりメタファーが上手でユーモアな人なんで、歴史音痴でもハラリさんと一緒に少し考えてみれば歴史の流れを掴まえれると思います。
上巻
最初から「人類が新たに取り組むべきこと」が来るんだけど、それは「俺全然そんなことに取り組んでないじゃん」とは思っちゃうんだようね… まあ、歴史から見れば「人類」の動向は少数の人から引き起こすのだから、問題ない。というわけで、人類はこれまであの三つのことを克服して、これからは不死(自然になら死なないこと)・幸福・神を求めるようになるって話だが、これらはかつて多くの宗教や神話の中心でもあった。過去の古典はいかにも多いので、この本から入って俯瞰できるのもかなりありがたい。
そしてかなり「哲学的な」話題が多いに見えるが、どれもたんなる思考実験にはもう止まらず、21世紀に実現可能なことになってくるから、注意を払うべきだと。
学びとなったのはたとえばテロリストの「演出」の話が笑えるし、衝撃だったなとも思えた。
快感や知識やスキルは、商品として買える日?
うーん、超人にアップグレードできるなら、確かに性能力をアップグレードしたいなー、なんて。
「進撃の巨人」の**人、ウォールの内外などのトピック、は第三章と密につながっている。
特に**「意味のウェブ」節は読むべき**、「私たち」とか「彼ら」とか、**国はどうとかの考えは、すぐに崩れてしまうんだよ。十字軍のジョンが遠征を出る前にかかわっていた人々の話…そして月日が流れ…の例が好き、衝撃。
私たちが思う共同主観的な概念、ストーリーとか、いつかサイバースペースに取って代われるのか?その意味で今の世界に意味を与えている虚構を理解する必要があるーつまりハラリさんさえりかいしきれていないのだった。どうすればいい?
僕が思うのは、自分が生きている制度や社会の常識を鵜呑みせず、さまざま虚構と比べていくのは大事かと思います。とはいえ虚構は大事ですが…。ただ流されないことに気を付けるべき。今敏やインセプションなどの夢をテーマにしたSFを観ればわかりやすくかも。と話してみれば、クリティカルシンキングは常にしようねという話なのかな。
以下はマーク!
なんて歴史を学ぶのか?「 」
何が現実??--「苦しむかどうか」
科学と宗教の関係を深く理解できる?
互いにできないことがあると同時に、制限を設けていること。
ーー下巻に続く。
難しい概念があるけれどハラリさんはかなりメタファーが上手でユーモアな人なんで、歴史音痴でもハラリさんと一緒に少し考えてみれば歴史の流れを掴まえれると思います。
上巻
最初から「人類が新たに取り組むべきこと」が来るんだけど、それは「俺全然そんなことに取り組んでないじゃん」とは思っちゃうんだようね… まあ、歴史から見れば「人類」の動向は少数の人から引き起こすのだから、問題ない。というわけで、人類はこれまであの三つのことを克服して、これからは不死(自然になら死なないこと)・幸福・神を求めるようになるって話だが、これらはかつて多くの宗教や神話の中心でもあった。過去の古典はいかにも多いので、この本から入って俯瞰できるのもかなりありがたい。
そしてかなり「哲学的な」話題が多いに見えるが、どれもたんなる思考実験にはもう止まらず、21世紀に実現可能なことになってくるから、注意を払うべきだと。
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特に**「意味のウェブ」節は読むべき**、「私たち」とか「彼ら」とか、**国はどうとかの考えは、すぐに崩れてしまうんだよ。十字軍のジョンが遠征を出る前にかかわっていた人々の話…そして月日が流れ…の例が好き、衝撃。
私たちが思う共同主観的な概念、ストーリーとか、いつかサイバースペースに取って代われるのか?その意味で今の世界に意味を与えている虚構を理解する必要があるーつまりハラリさんさえりかいしきれていないのだった。どうすればいい?
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